高次脳機能障害について


交通事故で体に怪我などはないにもかかわらず、障害が出ることがあります。

その代表的なものが、高次脳機能障害です。

脳は記憶や言語・論理的な思考・感情を司るのですが、交通事故で脳にダメージを受けると、それらの働きが減衰・喪失することがあります。

物理学的に見て衝撃のエネルギーは『質量×速度』ですので、低速でも重量のある自動車の事故であれば、身体にかかる衝撃はかなりあると言えます。

構造上脳は、脳漿で満たされた頭蓋骨の中で浮いており、ある程度の衝撃に耐えられるようになっています。

しかし、強い衝撃で脳が頭蓋骨の内側に衝突してしまうと、脳に深刻なダメージを負ってしまう事があります。

パック詰めされた豆腐でも、激しく床に叩きつけられてしまうと、パックは壊れなくても中の豆腐が割れてしまうのと同じ原理です。

そのため脳挫傷など脳の外傷は『脳の外側』、大脳の部分に起こる事がほとんどです。

「脳の障害」は、損傷箇所によって症状が異なる


一口に脳と言っても、脳は場所によりになっている役割が違います。

脳幹や小脳は『原始の脳』とも言われ、生命維持や五感などに深く関わりがあります。

一方で大脳は『人間という知的生命体であるための機能』が集まっており、特に大脳の表面を覆う大脳新皮質は、合理的で分析的な思考や言語機能を司っています。

構造上、脳の中でも一番外側にある大脳新皮質が受傷しやすいのですが、もし受傷してしまうと合理的で分析的な思考が出来なかったり、思っていることを言語出来なかったり、書かれている文章を正しく理解できなかったりと言った障害が起こります。

また、脳は記憶する器官なのですが、記憶には短期記憶と長期記憶があります。

例えば、おつかいで店に買いに行くときに「醤油を2本買う」と思えていても、それを1年後も覚えているかと言うとほとんどの人は覚えていません。

逆に忘れっぽい人でも、自分の家への帰り道を忘れる人はほぼいません。

脳内では一時的に覚える短期記憶のスペースと、長期に保管する長期記憶のスペースとで分けられており、一時的に覚えた記憶の中から選別して、いるものは長期記憶に変えて保管していき、不要なものは消えていきます。

脳の障害の中には記憶障害と呼ばれる症状があるのですが、記憶が保持できない症状の記憶障害があります。

『数分前に言われたことを忘れてしまう』 『翌日には昨日していたことをほとんど忘れており、晩御飯なども思い出せない』 『3日前に念押しをしていた約束を、当日には約束した事すら忘れている』 など、の症状が現れます。

よく「3日前に約束したでしょう?」「え?そうだっけ?うーん。あ!思い出した。」と言うのは一時的な短期記憶障害で、健常者でも起こり得るのですが、脳障害による短期記憶障害の場合、記憶自体が消えてしまっているので、ないものを思い出すことは不可能なのです。


短期記憶から長期記憶への移行に問題のあるケース

また、短期記憶から長期記憶への移行が上手くいかない場合もあります。

短期記憶は数時間から数日で消えていきます。

そのため、家の周りの地図や自分の家の間取りなどは、繰り返し毎日覚えることで長期記憶に変化して忘れることはないのです。

しかし、交通事故で短期記憶が長期記憶に変わることがなくなってしまうと、『昔のことは覚えているのだけれども、新しい事は覚えられない。』ということが起こります。

人の感情は脳の『前頭前野』と『扁桃体』は深くかかわっています。

扁桃体は感情を大きくする作用があるのですが、前頭前野は感情を抑制する働きがあります。

前頭前野は『前頭』と言う名の通り、脳の前部分にあるため交通事故で受傷しやすい個所であると言えます。

もし、前頭前野が受傷してしまうと感情の抑制が出来なくなってしまうため、怒りっぽくなったり、少しのことで泣き叫んだりと徐著が不安定な症状が出ます。

反対に扁桃体に異常が起こると感情の起伏がなくなり、表情がなくなると言った症状が出ます。

 

日常生活への影響

交通事故により高次脳機能障害が起こった場合、高い確率で日常生活に支障が出ます。

高次脳機能障害では、交通事故で脳にダメージを受けたことにより、脳の働きの記憶や言語・論理的な思考・感情が減衰・喪失します。

「交通事故後忘れっぽくなった。」
「事故にあう前は穏やかな人だったのに、怒りっぽくなって暴力を振るわれそうになった。」
「毎日読んでいるはずの新聞の内容が、理解できない。」
と言った変化が起こるため、周囲の人間も異変を感じやすいと言えます。

「短期記憶障害」は、後遺障害だと気づかれにくい

しかし、高次脳機能障害の中で短期記憶だけに障害がある場合には、なかなか本人も周囲の人間も気が付かないケースがあります。

言ったことをすぐに忘れると言ったケースでは、初めは「交通事故で本調子じゃないから。」と思っていても、何度も忘れるので周囲の人も「おかしい」と気が付いてくれます。

ですが、記憶の保持が1~2日間は可能でそれ以上は覚え続けられないと言ったケースでは、交通事故以前からしていた仕事は長期記憶の中にあるので、テンプレートで処理もできますし、その日言われた仕事は処理できるが、新しい事に関しては日をまたいでしまうと忘れてしまいます。

そのため、
「2日前に頼んだ仕事は出来ている?」
、「1週間前に電話して問い合わせた件、どうだったっけ?」
と聞かれた場合、思い出せないというよりも、『記憶自体が消え去ってない』ため答えることができません。

周囲の人間が「忘れっぽいのは困る。」と文句を言っても、当人は高次脳記憶障害で覚えてられないのでどうしようもないのですが、『自分は簡単な言いつけさえ覚えられないんだ。』と、落ち込む原因になったりします。

また、論理的な思考や文章・言語の理解に関して高次脳機能障害が出ると、
『相手が話している言葉が理解できず、場に合わない返事をしてしまう。』
『書類を読んでもすぐに内容が理解できず、何度も読み返してしまう。』
『交通事故前もしていた資料をまとめる作業が、交通事故後は時間がかかるようになり、内容の品質も落ちる。』
と言ったことが起こります。

短期記憶と論理的思考が出来なくなると、仕事も単純な軽作業しか出来なくなるケースもあり、会社からの評価が悪くなり降格・左遷・悪い場合には退職に追い込まれることもあります。


「怒りっぽくなる」という障害は、家族にとって負担が大きい

また、前頭前野に障害が出ると、感情が抑えられなくなります。

交通事故後怒りっぽくなったり、泣くことが多くなったり、静かにしていなければならない場所でも騒いでしまったりと、理性的な行動ができにくくなります。

高次脳機能障害での一番の障害が、『高次脳機能障害への理解が、本人も含めてきわめて少ない』ということです。

高次脳機能障害の患者自身が、記憶障害や感情の起伏の激しさの変化に気が付いていないということが多く、周囲の人間も
「交通事故のショックで体調が良くないんだろう。」
「年齢的に認知症が始まってもおかしくない。」
とつい看過しがちになります。

しかし、1か月2か月と過ぎても治るどころか、ますます症状が悪化してやっと病院で精密検査をしたら良い方で、患者が「自分はおかしくない!」と病院に行きたがらないケースもあります。

高次脳機能障害は脳を強打して起こるだけでなく、転倒程度の衝撃でも起こり得ます。

「むち打ちになるかならないかの軽微な事故だったから、高次脳機能障害なんてなるはずがない。」と考える方が多く、医者も気が付かないケースもあります。

そのため、患者家族が交通事故から人柄が変わってしまった患者の扱いに数か月~数年悩んで相談してきたり、患者が交通事故後会社をクビになり、転職するも長続きしないため、やっとそこで自分の高次脳機能障害の可能性に気付くと言ったケースもあります。

 

高次脳機能障害の後遺障害認定について

高次脳機能障害の場合、
『記憶障害』
『論理的な思考が出来ず、仕事が出来ない』
『感情の起伏が激しい』
『自発性が失われ・うつ状態になる』
など、精神障害系の後遺症が現れます。

普通の交通事故の後遺症と違い、『目に見える障害』ではないため、医師ですら後遺障害認定に対して慎重な方もいます。

しかしながら、脳が起因する障害であるため完全な回復は難しく、脳細胞は再生不可である事を考えると現状維持がやっとであるため、後遺障害認定は不可欠だと言えます。

高次脳機能障害に対する後遺障害認定の要件は精神障害系に分類されることが多く、内容も細かく条件付けされています。

第1級(自賠責保険金額3000万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 「身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、 生活維持に必要な身の回り動作に全面的介助を要するもの」

第2級(自賠責保険金額2590万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 「著しい判断力の低下や情動の不安定などがあり、1人で外出することができず、日常活の範囲が自宅内に限定されている。 身体動作は排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの」

第3級(自賠責保険金額2219万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 「自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。 また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。 しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、 一般就労が全くできないか、困難なもの」

第5級(自賠責保険金額1574万円)
・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 「単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。 ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。 このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの」

第7級(自賠責保険金額1051万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」

第9級(自賠責保険金額616万円)
・神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 「一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの」 ここで争点となるのが、障害によりどれだけ日常生活に支障があり、労働能力が喪失したかという点です。

実際に給料が減収したのか、争われることがあります

被害者の交通事故前の職業が繰り返しの単純作業がメインであったのならば、第5級・第7級・第9級に認定されても、給与(収入)は減少しない可能性があります。

しかし、昇給がなくなったり昇進が閉ざされる可能性がある場合、それを見越して逸失利益の請求をすることもあります。

また、専門職だけでなく通常の業務でも、第5級相当の後遺症がある場合には、会社によっては軽作業への配置換えなどもあり得ます。

そのような場合、収入の減少だけでなく、患者本人の仕事へのやりがいを大きく削ぐことになり、退職もあり得るため、加害者側と法廷闘争となる事もあります。 裁判所は診断書の内容を重視するだけでなく、被害者の実際の生活にどれだけの支障が出ているかも判断材料とします。

交通事故から裁判まで継続して症状が続いているのならば、裁判所も認定に傾くかもしれませんが、被害者の主張に疑問がある場合には認められる可能性は低くなると言えます。

後遺障害認定されるか否で、後遺障害慰謝料が支払われるか変わってくるのですが、弁護士を通じて請求する場合には判例基準で請求するため、自賠責基準に比べると大幅に増額します。

自賠責基準だと慰謝料部分は第1級で1100万円、第2級で958万円、第4級で712万円、第9級245万円ですが、判例基準ですと第1級で2800万円、第2級で2370万円、第4級で1670万円、第9級690万円、なので、差は3倍近くなります。


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